【 講演概要 】
システム・ダイナミックス・モデルにより、ビジネス戦略の改善やリスク管理をいかにして行うかについて、具体的なモデルを示しシミュレーションを実行しながら、その実用化について討論します。
(1)
SDの実用化に向けて 森田道也 (学習院大学)
SD生誕後半世紀を目前にしている。容易に使える状態にありながら今時点で「実用化に向けて」というタイトルをつけるのはちょっと奇異な感じがする。このような事態は、SDがすでに応用性において何かを欠いているということであろう。それはSDそのものに内在する問題なのか、利用者の方に問題があるのか、潜在利用者とSDの間になんらかの溝があってそれが越えられないものなのか等いろいろと考えることができる。
実用化の壁として3つに分けて考えてみたい。それらは、
1)
モデリングの壁
2)
制度(慣習)の壁
3)
人的エネルギーの壁
モデリングの壁とは、技法に内在する技術的障害で、SDを習得し、利用するのに要求される資質や知識の壁である。制度の壁は、SDを利する必要がないことである。人的エネルギーの壁とは、利用者側の利用にあたってのしんどさを克服する気力やエネルギーがないということである。他にも要因があるかも知れないが、上の3つの壁はもっとも大きな壁ではないかと考える。
これら3つの壁に共通する、壁の克服にあたって二つの問題があることにすぐに気づく。それら二つの問題に対処することが壁を低めるのに寄与する。その対処について問題提起し、皆さんと一緒に考える機会を持ちたい。
(2)
デマンド・プル型製造業を通じた経営シミュレーションツールの構築 紅林倫太郎(日本電気株式会社)
事業を運営する経営者は、様々な場面で会社の将来を左右するような経営判断を要求される。こうした経営判断を誤ると、場合によっては事業運営の存続そのものが危機に晒されることになる。かといって決断を先送りにすれば、事業の成長機会を逃し、競合他社の行動によっては事業運営存続が危ぶまれる場合もある。事業運営においては、様々な状況を考慮しながら、最適のタイミングで最適の判断をすることが重要である。
正確な判断を行なうためには、競争のダイナミクスを十分に理解することが重要である。そこで今回、競争を考慮した上での経営判断を体験できるようなシミュレーションツールの構築に取り組んだ。モデルにはデマンド・プル型の製造業を用い、競合他社の振舞いについてはマイケル・ポーター氏の競争に関する著書などを参考にモデル化した。モデルは、製造プロセス、設備投資、学習効果、価格、製品開発、収益構造から構成されている。またシミュレーションでは参加者が設備投資、価格設定、R&D投資を決定できるようになっている。本発表では、構築したモデルの内容とシミュレーションツールについて紹介する。
(3)
SI事業におけるモデリングとシミュレーション
明神知 (株式会社 オージス総研)
−SDとUMLによるアナリシスとシンセシス−
SI事業とはお客様に情報システムを活用したソリューションを提供するビジネスである。このSI事業において情報システムを設計するシンセシスツールとしてUMLが国際標準として定着してきているが、この情報システム稼働時の前提である事業や業務、さらに情報技術といった実装環境に関する制約の理解が十分でないために最適なシステム設計にならない場合がある。これはシンセシスが先行してアナリシス不在の状況が起こっているといえる
本稿では、このアナリシスの部分にシステムダイナミクス(SD)を活用して、情報システムの実行環境の制約に関する分析を生かした設計アプローチについて考察する。
SDモデルとしては、業務とシステムに関する最適化を図るために業務、データ、アプリケーション、テクノロジについての計画を作成すべきであるというエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)に倣い、SI事業構造、情報構造、ソフトウェア構造、ハードウェア構造が考えられる。ここではSI事業構造を中心にSDモデルを提案し、UMLによる情報システム設計との連携プロセスについて提案したい。
(4)
SDによるBSCの解法
蓮尾克彦 (ITコーディネータ協会)
管理職の意思決定に役に立つシステム構築技術は改善されたが、未だ経営者の意思決定に役に立つシステムは出現していない。
キャプラン、ノートンによれば業務管理(オペレーショナル)ループをマネージするのが管理者で、戦略(ストラテジー)のループをマネージするのが経営者といえる。最近の経営工学、経営品質、経営成熟度の理論では戦略を立てBPRをするとともに、改革したプロセスを改善する為のプロセスを同時に作る必要性を強調している。この「プロセス改善の為のプロセス」に提供する情報を経営者が必要とする意思決定の為の情報と定義できる。この情報はP.チェンの実体関連モデルで記述することができる。この情報は経営戦略策定に使われるBSCのサブセットとして戦術レベルのBSCを作り、CSFとして必要な企業能力(ケーバビリティ)を導出できる。この企業能力をSDによりタイムリーに経営者へ提供することで経営者の意思決定システムが構築される。
本論では、テレコム会社の売上目標達成させる為に営業能力を強化する為の意思決定システムのSDモデル例を紹介する。
(5)
ビジネス・プロセス・モデルにより活きるBSC戦略経営
松本憲洋 (POSY Corp.)
規制緩和が進んだ自由主義市場経済において、企業は自社と自社を取り巻く環境を分析して、持ち味を活かした戦略を立案し、その実現に取り組んでいる。実現に際しては戦略を成功に導くために、バランスト・スコアカード(BSC)を導入する企業が多い。
しかし、BSCの導入において、社員の意識を戦略に集中させることはできたものの、最終的な目的である財務の視点の目標を達成できないままの企業が多く見受けられる。本来のBSC戦略経営は、変化する経済・社会環境に適合させて戦略を動的に変更しつつ、事業を成功に向け舵取りするのであるが、最終目標に到達できないということは、取り組み方に欠陥があるためであろう。
グローバルな経済環境における経営問題は複雑系であり、事業経過における動的な現象とそれに対する適切な対応のあり方を関係者で共有するには、過去の実績である会計情報や戦略との関係付けが希薄な目標管理だけでは不十分であるとしてBSC戦略経営を持ち込んだはずであった。しかしながら現時点では戦略を実行する過程における動的な分析や戦略の仮説検証型の事前評価の手段が準備されていないままであることが、上に述べた欠陥の原因となっていると考える。
本論では、新規事業を事例として、BSC戦略経営で定量的な最終成果を実現するために、ビジネス・プロセス・モデルを組み込み、それを使った最適化やリスク評価やリスク下における最適化などの戦略シミュレーションを活用する方法について提言する。
さらに、ビジネス・プロセス・モデルをサブ・モデルにより構成し、サブ・モデルはモデル・ライブラリーの形態で保管する。モデル・ライブラリーは今後構築する多様で大型のビジネス・プロセス・モデルの構成要素として再利用できるように、サブ・モデルの標準構築形式についても提言する。
【
開催情報 】
テーマ : ”ビジネスにおけるSDモデルの実用化”
開催日:2005年4月2日(土)13時〜14時10分
開催場所:学習院大学西1号館 301教室
交通路線図
⇒ http://www.gakushuin.ac.jp/map.html
学内地図
⇒ http://www.gakushuin.ac.jp/m_map/index2.html
主催:国際システムダイナミックス学会日本支部(JSD)
ビジネス・プロセス・ダイナミックス研究分科会
担当
会費:無料
連絡先:JSD事務局 Tel.03-3512-5358 ⇒ jsd-office@yahoogroups.jp
事前登録:以下の内容をお送り下さい。
宛先 ⇒ JSD2005@yahoogroups.jp
名前,所属,E-mail,JSD会員(Yes/No),電話番号,住所,ITC受講者(Yes/No)
note) ITC=ITコーディネータ
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