1.概要 スタットオイル社は、石油とガスの探査・生産・輸送・精製・市場取引までをカバーしたノルウェーの巨大な国策会社です。事業領域には石油化学分野や電力事業などの公益事業分野も含んでいます。主な競争相手は、BP,
Royal Dutch/Shell Group, TOTALなどです。 企業の戦略策定の事例については事の性格上公開されることが少ないのですが、Powersim
Software社がスタットオイル社から、システム・ダイナミックス・モデルによるシミュレーションを活用した戦略策定過程の概要についての開示許可を得ましたのでご紹介します。 経営における戦略策定過程のような上流ステップの考え方、あるいはサプライ・チェーンとバリューチェーンの設計方法などは、業種にかかわらず参考になると思いますので、エネルギー産業以外の方々にも是非ご覧いただきたいと思っています。 2.スタットオイル社 :Statoil
ASA スタットオイル社は28カ国で操業していて、2003年末には従業員が19,326人に達しています。おおよそ40%がノルウェー国外で働いています。 ノルウェーの大陸棚、北海、カスピ海、西アフリカ、ベネズエラにおける上流ビジネスへの取り組みに焦点を当てていますが、特に、ノルウェーの大陸棚では先導的企業で、20ヶ所のオイル・ガス田を操業しています。 スタットオイル社は、創業以来オイル換算で43億バーレルの供給をしてきました。 また、スカンディナビア、アイルランド、ポーランド、ロシア、バルティック諸国で2000ヶ所以上のガス・ステーションを経営しているほか、石油化学ベンチャ企業も傘下に収めています。 スタットオイル社は、ほぼ81%をノルウェー政府が所有している国策会社です。 2000年以来の売上と利益は以下の通りです。
3.今回の戦略策定に至った状況 スタットオイル社の製油所群の中で、産出拠点から製油所を通って各種の市場に送る天然ガスのフローの価値連鎖をシミュレーションする必要がありました。 そのシミュレーションにより、最適な市場と生産のチャンスを理解し、相互比較の後にその中から選択するためです。 この価値連鎖において、ガスフローは異なる流量と組成を有しています。ガスの組成により、財務的にも生産的にも取り扱いは異なります。例えば、もしもガスが多くの重い成分を含んでいるなら市場で比較的高価格ですから、縮合生産物は多くの場合魅力的です。 そうでない場合、ガス組成や設備投資額がネックとなり、財務的な観点から縮合生産物を抽出することが実現できないことがあるかも知れません。 スタットオイル社は、投資、市場要件そして原材料の組成と有効性の間の妥当なバランスを見出すことができて、そして各種のシナリオを継続的に評価できるツールを求めていました。 4.起こした行動 スプレッドシートを使って目的をかなえることは、あまりに複雑で扱いにくいことが分かりましたので、スタットオイル社はPowersim
Software AS にこれらの課題を取り扱うためのモデルの開発を頼みました。モデルは、各種の市場案と生産案を比較するために色々なシナリオを実行できるというだけでなく、この目的について良き全体像を与えることになると思われます。 モデリングチームはシステムの物理的な部分をシステム・ダイナミックス・ツールであるPowersim
Studioを使って、コンポーネント群として設計しました。 “コンポーネント”とはPowersim
Studio の中で一つの独立したモデルとして取り扱うことができるモデルの最小単位のことです。そして“シミュレーション・プロジェクト”とは、複数のコンポーネントで構成された問題解決のための全体モデルのことを指しています。 それぞれの単位モデルであるコンポーネントは、生産ラインやガスの取り扱い技術の特定部分を表現するための動的な数式を含んでいる一般的なモデル要素で構成されています。 コンポーネントもモデルの構成要素もPowersim
Studioの中では、ドラッグ&ドロップで配置されます。 開発したコンポーネント・ライブラリが準備できたので、モデリングチームは効率的にテストし、各種の構造に対する操業シナリオの評価を明確にして、さらに各種のシナリオの生産と財務に関する主要なパラメーターを比較することができるようになりました。 コンポーネントの例として、各種の市場コンポーネントがあります。ここでは、一つのケースとしてはガソリン・ステーションへの配送があり、他のケースとしては民間の家庭用としての配送があります。並行して複数のシナリオを実行できますが、そこでそれぞれのシナリオはそれぞれ異なる市場コンポーネントを使うことになります。その後、それぞれの解法について長期と短期の長所と短所とを分析します。 5.なぜ、シミュレーション・モデルなのか? 1)構造の明確化とセルフ・カリブレーション 生産設備へ流れ込むガスあるいはその他の原材料の容量と組成が仮に一定であったにしても、プラントの構造と操業はそれでも扱いにくい事柄です。例えば、製油所の内部で多くの場合にフィードバック・ループが存在します。 Powersimの技術では、財務制限や最少の生産量のようなモデルのオペレーターによって定義された要件の下で、生産と財務事項の良いバランス点を自動的に見出すことができるセルフ・カリブレーションのシミュレーション・モデルを創ることができます。バランス点を発見できることは、主要な生産性能と財務性能の指標を確認するための効率的な方法となります。 別の言い方をすると、シミュレーション・モデルを使うことは、高度に複雑なシナリオに対して、戦略的、操業的、財務的な明瞭さをもたらすことになると言えます。 2)変化への迅速な適応 多くの石油会社にとって今日では、システムへ流れ込むガスの容量や組成が変わるなら、操業パラメーターを完全に再計算する必要があります。一般には、これらのシステムは複雑なスプレッドシートの中にモデルが組み立てられていることが多かったわけですが、多くの場合、そのシステムの中で、一行がそれぞれの時間刻み(例えば、月のような)を表現しています。しかしながら、一行では決してシステムの全体モデルを含むことはできません。だからスプレッドシートは局所問題の解法に使われることが多いのです。 一方、シミュレーション・モデルは局所的な部分最適化問題ではなく、より大きな全体的なモデルを組み込むことができます。さらに、迅速に会社の新しいチャンスとシナリオを分析しながら、時間刻みの長さやシミュレーションの開始と終了時間などを簡単に変更することができます。固定の時間刻みによるスプレッドシートを使っていたのでは、一般にはこの手の柔軟性は難しいことなのです。 3)シナリオの比較と選択 複数のチャンスとシナリオを手元に持って、オペレーターは多数の場合について各種の候補の中での決断に正対します。シミュレーション・モデルは、互いに対比して比較し評価するための効果的なツールを提供します。その結果、マネージャに計り知れないほどの意思決定支援ツールであることをしばしば気づかしてくれます。 6.結論 このプロジェクトによって、スタットオイル社は多くの異なるシナリオを迅速に分析して比較する能力を手に入れました。 @最初のチャンスのふるい分け後に、彼らはいわゆるシナリオの選抜候補として、200種類を決定しました。 Aシミュレーション・モデルを通してこれらのシナリオを実行することにより、これらの一部から関心を抱かせる候補の数を絞り込みました。その結果、マネージメント・チームは、より興味の持てる市場と生産のシナリオを40から50個残しました。 Bさらに詳細なシミュレーション・モデルが各種のシナリオを最適化しカリブレーションするために使われました。その際、所与の市場状況が前提とされ、最終決定のための根拠が完全に揃いました。 適正で最も適切な解法策を選択することに対してサポートしたことにより、このモデルのシステムはスタットオイル社に数百万ドルの相対的な利益の可能性をもたらしたことは明確です。 モデルを使って、全てのチャンスにではなく、正に適切なチャンスに焦点を当てることによって、会社は時間とお金をものにすることができます。 このスタットオイル社の事例はサプライ・チェーンの一事例に過ぎません。サプライ・チェーンの視点から眺めると、この事例はあらゆる事業分野に置き換えて考えることができます。 補足 :専門家の皆さんへ シミュレーションの中でオイルとガスの各種の要素を分離するために、Powersim
Studio の配列の機能を容易に使うことができます。 あらゆる混合した炭化水素はオイルとガスのモル濃度組成として表現されます。この混合と重量の情報などにより、熱量、圧縮性、蒸気圧、転出基準の総重量などを計算することが可能です。さらに、モル濃度基準の組成から、組成基準の重量に変換することもできるでしょう。 Studioの中のシミュレーション・モデルは、ストックとフローとを使います。これらにより総量とエネルギーバランスとをそのままに保つことが容易になります。 より高いレベルでは、NPVやIRRの計算が、各種のモデル化されたシナリオに対する比較可能な経済的な結果を得るために実施されることになるでしょう。そのようなシナリオは、単なるプラントの処理過程から、現場・プラント・市場・配送ラインを巻き込んだ全体のネットワークの何らかの形になります。 スタットオイル社のホームページ http://www.statoil.com |